なんてことを考えながら

斜陽 他1篇
太宰 治
岩波書店
1988-05


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太宰治の『斜陽』を読み返していたら、中学生の僕はこんなところに傍線を引いていた。

 「お母さま。私いままでずいぶん世間知らずだったのね。」
<中略>
 「いままでって、……」
とお母さまは、薄くお笑いになって聞きとがめて、
 「それでは、いまは世間を知ってるの?」
私はなぜだか顔が真赤になった。
 「世間はわからない」
とお母さまはお顔を向きうむきにして、ひとりごとのように小さい声でおっしゃる。
 「私には、わからない。わかってる人なんか、ないんじゃないの?いつまで経ってもみんな子供です。なんにも、わかってやしないのです。」
 けれども、私は生きて行かなければならないのだ。子供かもしれないけれども、しかし、甘えてばかりもおられなくなった。私はこれから世間と争って行かなければならないのだ。ああ、お母さまのように人と争わず、憎まずうらまず、美しく悲しく生涯を終る事の出来る人は、もうお母さまが最後で、これからの世の中には存在し得ないのではなかろうか。死んで行くひとは美しい。生きるという事。生残るという事。それは、たいへん醜くて、血の匂いのする、きたならしい事のような気もする。


太宰治『斜陽 他一篇』岩波文庫 p128

うーん、全然成長してないぽorz