昔書いた文章

松本大洋鉄コン筋クリート』に見られる他者との関係性

松本大洋の「鉄コン筋クリート」は二人の少年を軸に物語が展開される。クロとシロ。これら二人の少年の関係性は一体どのようなものだろうか。
 先に自分の結論を記しておくとそれは、「前者が後者を守っているつもりが実は守られている」という関係である。より詳しく述べるなら、クロにとって、シロを外在的な物理的危険から守ることを使命とすることで自らの実存を保っていられるということである。
 この物語の舞台は不良少年やヤクザが入り乱れる無国籍、無秩序な雰囲気が漂う宝町。親兄弟をもたない二人の少年クロとシロは、自分達の居場所である「街」を守るためにヤクザや警察たちと戦う。シロはいわゆる「天然」な少年であり、とても外界の圧力に対し無力な存在であるが、物事の本質というものを素直に受信できる。クロは残虐非道な性格であり人を傷つけることを厭わないが、シロにだけは唯一心を許す。シロを守ることが自分の使命とし、「街」を変えようとするもの、シロを傷つけようとするものに対して容赦なく攻撃をしかける。
 あるとき、ヤクザと手を組み宝町にレジャーランド「子供の城」を企む「蛇」の一味と対峙することになる。その戦いの中でシロは蛇の手下に刺される。クロはシロを抱えたまま蛇達と戦うことが困難であると考え、シロの保護を警察に任せる。
 だが、シロを失ったクロは自分の存在意義を見失ってしまう。そして自己の心奥底に潜む孤独のみを信じる絶望的な存在「イタチ」に闇へと誘われる。
 そのときクロにシロの「声」が届く。クロは闇よりシロを信じることを選択し、「イタチ」は目の前から消え去る。
しかし、クロの右手には闇に誘われた時に付けられた傷が残ったままである。それは、心の中から完全に闇を消し去ることはできないという刻印である。

鉄コン筋クリート』は、心の中に「闇」を抱えながらも、他者との関係のなかに「光」を見出せるか、「光」を信じることを選択できるか、ということを描いた物語である、と僕は考える。

小沢健二「暗闇から手を伸ばせ」リピートして聞いてたら思い出した。